メンタル疾患のない世界を目指し、ひとりでも多くの人に届けたい――『言語化の魔力』樺沢紫苑氏インタビュー(後編)

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」で自己啓発部門賞を受賞した『言語化の魔力』。
前編では、言語化とは何か、どのように実践していくかについて伺った。後編では、言語化の実践について更に深め、また精力的な発信活動を通じて樺沢氏が実現したい世界等、今後のビジョンを語っていただいた。インタビュアーはグロービス経営大学院の江上。(前後編、後編)(前編はこちら

ネガティブな反応ではなく、あなたを応援してくれる人に気づく

江上:ここまで、言語化の重要性やその実践についてご説明頂いてきました。その中で、言語化の訓練としてTwitterの活用などをお話し頂きましたが、SNSでは、ネガティブな反応に不安になることも多いのではないでしょうか。樺沢さんはこうした言語化に伴う不安をどのように考えていらっしゃいますか。

樺沢:皆さん、ネガティブな反応に注目しがちだと思いますが、文章を書いたり情報発信したりすることは、ポジティブな反応が起こるので基本は楽しいです。10人いたらあなたを嫌いな人は1人、あなたを好きで応援してくれる人が2人、残りの7人はどうとも思っていないという1対2対7の法則というものがあるのですが、これを考えるとよいのではないでしょうか。

この法則は職場でも同じで、20人の職場なら反論する人が1人か2人はいても応援してくれる人はその倍ぐらいいる。だから、ネガティブな意見が出たとしても、その倍以上必ずいるはずの応援している人を探さないといけません。それは、自分から話したり、コミュニケーションをとったりすることで見つけることができるのです。

悩みを抱えたときに「相談する人がいない」という人がいますが、必ずいます。それに気づかないのはもったいないです。

江上:とはいえ難しいのは、人間は悩んでいるとき、落ち込んでいるときは、エネルギーを失ってしまう生き物ですよね。

樺沢:ですので、エネルギーを失った段階で相談するのは手遅れかもしれません。私も患者さんと話し、いろいろなアドバイスをしますが、エネルギーを失った時にはもう動けない。もっと上流でのヘルプが大切になるのです。

皆さんの会社でも、「会社を辞めたい」と相談される前の軽い状態で早めに気づいて、ガス抜きをしたり、要領よくできる方法を教えてあげたりと、日々の対応が大切です。あまり知られていませんが、4、5人に1人は死ぬまでに一度は精神科を受診すると言われています。家族の中で必ず一人ぐらいはメンタル疾患になるという確率です。あなたの周りにもいると思って手を差し伸べたり「大丈夫?」と聞いてあげたりしてケアしてほしい。扉をオープンにしておくことが重要なので、「困ったことがあったらいつでも言ってね」くらいのスタンスがいいと思います。

対面での「ちょっとした雑談」が組織として言語化力を高める

江上:ここまで個人としての言語化力についてお話いただきましたが、チーム・組織として言語化力を上げていくために、心がけたいことは何でしょうか。

樺沢:最近のテレワークやzoomなど、オンライン会議は非常に良くないと思っています。オンラインだと、余計なことを言ってはいけない雰囲気が出やすいからです。しかしリアルの場だとさりげない話をしやすく、アイデアの種になるものも自由に言い合いやすい

つまり、組織としてはリアルコミュニケーションを大切にしてほしいのです。その基本は、挨拶や雑談です。コーヒーブレイクのような休憩時間に「最近どう?」と声をかけるのが、メンタル的にもいいし、職場の生産性を高めるという研究も出ています。

江上:オンラインであえて雑談がしやすくなる方法はありますか。

樺沢:Zoomであれば、3人か4人ごとにブレークアウトルームがつくれますよね。そこで最初の3~5分を、「今週あった楽しかったことをシェアしましょう」などお題を決めて、楽しいことを話すのです。全員だとやりづらいですが、3人ぐらいのグループに分けると話が盛り上がると思いますよ。

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